基礎知識を簡単にまとめます!
クラフトビールにほんの少し興味が出てきた方が,まず最初にネットを検索していうセリフがタイトルです.
「クラフトビールいろいろありすぎてよくわからん」
その気持ちわかります.いまだに私たちビール好きですらそんな感じです.なので,ここでは皆さんの好みや興味に合うような分類の仕方をちょっとずつお教えしたいと思います.ディープな語りについては次の機会に…いや本当はディープな語りのほうがしたいんですけど,ここは落ち着け私.
まずは色で分けよう
ビールの分類方法は様々です.味もさることながら,色・原料(麦・ホップ・副原料)・醸造工程・保存方法・注ぎ方・起源国などなどきりがないのですが,まず皆さんが最初に体験する「色」で分けちゃいましょう.
ビールの色の違いは,主に原料である麦芽の違いです.麦芽というのは芽が出た麦で,面白いことに芽が出ないままの麦だけではちゃんとビールにならない(厳密には麦芽糖にならないのですがこの話もまたいずれ)のですが,普通の麦芽は麦と同じ色をしていて,ビールもだいたい黄金色に近い,よく知っている色になります.
では世の中にある黒ビールとか褐色のビールはいったいどうやってできるかというと,麦の焙煎度合で決まります.麦芽を焦がして色を付けるのです.焙煎度が上がるほど,黄金色から赤(あるいはアンバー)・褐色(茶色)・黒と色が濃くなってゆきます.とはいえ真っ黒にみえる黒ビールでも,焙煎麦の含有率はそこまで高くありません…高々数%程度とか.
焙煎すると,麦の香ばしい香りがビールに移ります.カラメルやチョコレートの香りに近づき,香ばしくて深い味わいになるわけですね.黒ビールに甘く感じるものが多いのもこの香りが一役買っています.
さて,黒ビールもあれば白ビール(ヴァイツェン・ヴァイスビア)と呼ばれるビアスタイルもあるのですが,これは実は焙煎度合とは関係ありません.
原料で分けよう
では白ビールとそれ以外のビールの違いは何かというと,実は原料が違います.普通のビールの主原料は大麦なのですが,白ビールは主原料が小麦です.小麦のビールは大麦のビールに比べ,やさしい舌ざわりでほのかに甘い香りと味わいになります.クラフトビール好きの中には小麦ビールのほうが大好き!という人もいるぐらい,ビールの味わいは大きく変化します.
ところで,ビールの原料は麦と決まったわけではありません.昔のドイツでは「ビール純粋令」と呼ばれる法律でビール生産に関する技術保護をしたせいで,ビールには水と小麦とホップしか使えないという決まりがあったりしたのですが,現在では,様々な穀物がビールには使われています.
日本で最もよく使われている麦以外の穀物原料はやはりお米です.四大ブルワリーのビールの多くにも利用されていて(例えばアサヒの「スーパードライ」の原料にも入っています),日本のみならずアジア圏のビールでは一般的です.お米らしいふんわりした,軽い味わいになるのが特徴.その他にもコーンを入れたり,麦芽糖の水飴で作ったり,芋や栗などでんぷん質さえ入っていればわりとなんでも作れます.乳糖添加のビールはアメリカ発祥ですが今もトレンドの一つですし,最近だとカラギナンと呼ばれる海藻由来成分とかも入ってたりします…カラギナンはむしろビールの沈殿物をろ過する際に効果が高いという点のほうが重要ではあるのですが.
さらにビールには,味や香りづけのために副原料を添加することがあります.多くは果物,その中でもグレープフルーツなどの柑橘系であったり,ホップ以外のハーブ類を入れたり(日本だとワサビとか紫蘇とかのビールが売られていたりします),正直本当に何でもかんでも突っ込まれてたりします.ただし,おいしいビールに作り上げるのは正直至難の業で,生産地の特徴を何とか出したい!と無理矢理突っ込んだ挙句全然おいしくないビールになって失敗…なんてこともあったりなかったりするようです.今では様々な情報交換や技術の流通でそういう問題もずいぶん減ってきているので安心です.
原料・副原料は時折「ちょっとお前それ大丈夫か」というものが入っていたりするブルワリーさんもいて,例えば(日本ではありませんが)キャンディーバーとかチョコレートケーキとかミントとかあんことか,ちょっと落ち着け,でもおいしいから仕方ないじゃん,どうしよう.一度お試しあれ.
酵母菌・出身地で分けよう
ビールを糖からアルコールに変換する仕事をする酵母菌.ビール酵母はやはり地域性が高く,土地ごとに全く違う味わいになります.同じビアスタイルであっても,ボヘミアンピルス・ジャーマンピルス・アメリカンピルスナーのようにその味わいは地域ごとに異なるなど,酵母や生産国・地域による影響は大きいです.
地域別に分けたときに最も有名なジャンルのひとつがベルギービールです.ベルジャン酵母は他のビール酵母とは一線を画す独特の味わいが特徴で(甘くてふくよかで,ちょっと異質な感じもするというのが私の感想),その特徴的な味わいのとりこになってしまう人も多数.さらにベルギービールは,隣のドイツで禁止されていたせいか副原料が華やかだったり,保存食としての歴史が長いせいでアルコール度数の高いものも多く(いわゆる修道会ビール…アビーとかトラピストとか呼ばれるスタイル),一種独特の文化圏を構成しています.日本でもベルジャン酵母ベースのクラフトビールが,有名どころも含めてかなり見受けられますので,比較すると面白いですよ.
なお,ビールを作るのに必ずビール酵母だけで作る必要はなくて,例えば日本酒酵母やワイン酵母を使ってビールの醸造をしているクラフトビールのブルワリーもあります.説明が難しいのですが,日本酒酵母やワイン酵母で作ると,味もなんか日本酒やワインらしくなるのが面白いので,これも機会があればぜひお試しあれ.
発酵のための菌の違いといって忘れてはいけないのは,ランビックと呼ばれるビールです.これはベルギーの古き良きスタイルの発酵で,なんと乳酸菌とかが乱入してきます.おかげですごく酸っぱいビールが出来上がるわけですがこれが癖になる味わい.管理が難しく,うっかりすると腐敗しちゃうのですが,アメリカでは腐敗を避けつつ酸味の高いビールを作るためにわざわざ乳酸菌を発酵時に添加したサワーエールが一大ムーブメントになっていたり,何ならクエン酸を突っ込んだりしているらしく,そこまでして酸っぱくするか…という気持ちです.おいしいから文句言えないけど.
ラガーとエール
クラフトビールはよく「エール」という言葉でスタイル名が終わることがあります.「ラガー」という言葉もよく聞きます.このふたつは,酵母の違いに加えて,タンクの中での発酵の仕方も異なり,その結果としての味わいも異なります.
日本でよく飲まれるラガービールは,タンクの下のほうで主として発酵が進みます.温度も低めで発酵のペースは遅めです.その分,泡がきめ細やかでおとなしい味わいになります.一方エールビールは,タンクの上のほうで主として発酵が進みます.温度が高めでラガーより発酵期間が短くその分激しく発酵するので,風味が強くパンチのきいた味わいになると考えればよいでしょう.
ただ,最近ではCold IPAスタイルのように,「エール酵母なんだけど発酵の仕方はラガーっぽく」のようななんだかよくわからなくなるようなスタイルのビールも出てきているので,もしかするとラガーとエールで分けるのはもうそろそろ時代に合わなくなってきているかもしれませんね….
などとさんざん語ってきたものの
結局ビールの好みは人それぞれですし,なんならビールもビールそれぞれです.ここまで書いてきた話は結局単なる一般論で,ブルワリーの人たちもこれまでとは違うあっと驚くビールを作ろうと日夜研究努力していますし,ビール好きも好きなビールを探すべく毎晩のようにビアバーを渡り歩きます…渡り歩けるのは都会の特権なので,私はちょっとうらやましいです…ってそうじゃなくて.
ということは,自分の好きなビールを探すためには,やはりいろいろ当たってみるしかありません.慌てて好き嫌いを決めずに,人の話に完全に流されずに,自分の大好きなこれ! を探すのもクラフトビールの大きな楽しみですので,ぜひ「わたしの一杯」を見つけてください.
さあ,わたしの一杯を片手に,ビールの世界を歩きましょう!