いまさら「クラフトビールって何?」と恥ずかしくて聞けない…?

クラフトビールとは,有名な会社が作ったのではないけど,とてもおいしいビールのことを言います.

ビールってみんな似たようなものでしょ?

たいていのみなさんにとって,ビールと言えば「黄色くて苦い」という印象が強いお酒です.有名なビール会社といえば,キリン・アサヒ・サッポロ・サントリーなどがありますが,この有名なビール会社(四大ブルワリー,と呼びます)が市場に投入しているビールは全て「黄色くて苦い」ビールです.

これはどうしてかというと,日本に最初に輸入されてきたビールがこのタイプだったからなのです.

ピルスナー(Pilsner)

特に四大ブルワリーが作っている,日本で流通するビールの大半はピルスナーと呼ばれるスタイルのラガービールです.源流をたどると,ピルスナーはチェコ発祥で,特にピルゼン地方で醸造・提供されていました.細かい分類ではボヘミアンピルスナーと呼ばれています.

ところがこのチェコのピルスナー,実は醸造技術はドイツからの輸入でした.当時ドイツで醸造されるビールは,金色というより褐色に近い濃色のビールが多かったのですが,同じことをチェコでやったら見事な黄金色に.しかものど越しとキレがアップ.これはチェコの水が軟水だったからとされています.

黄金に輝く美しいビールは本場ドイツでも大流行し,ジャーマンピルスというスタイルで一世風靡します(なお,ドイツのラガータイプのビールには,ほかにもケルシュ,ヘレスやドルトムンターなど,様々なスタイルが今でも継承されていますが,それはまた別の機会に).このジャーマンピルスが日本に輸入されたところ,この「のど越しとキレ」が日本食ともマッチし,現在のビールの主流となった,というわけです.

例外はもちろんありまして

なお,四大ブルワリーが作ったビールが全てピルスナー,というわけではありません.例えばサッポロビールの最高峰「ヱビス(YEBISU)」.このビールは(説によっては)ドルトムンターに分類されることもあります.ピルスナーよりも芳醇で深い味わいのビールは,ドイツのドルトムント地方で古来から作られていたラガーです.とはいえ差はそんなに大きくありません.

業界を震撼させたといわれた,四大ブルワリーのビールの異端児といえば,キリンビールの「SPRING VALLEY豊潤496」でしょう.褐色の濃いこのビールは,生産の際にホップ(ビールには欠かせない苦み成分を加えるビール独特の香草です.詳しくはまた別の機会に)を大量に使うことで華やかで芳醇な香りを加えた味わい深いビールに仕上がっています.このビールはインペリアルペールラガーに分類されることが多いようです.これはピルスナーたちとははっきり一線を画していますので,まだ飲んだことない!という方はぜひ.正直言って,このレベルのビールを四大ブルワリーに生産されちゃうとクラフトビールのブルワリーが大変なことになっちゃうかも…というぐらいの出来です.

クラフトビールとは結局何?

さて,四大ブルワリーの話が長くなってしまいましたが,クラフトビールとは,結局この四大ブルワリー以外の日本のブルワリー,つまりビール醸造所が作ったビール全てを指します.その多くは日本の主流であるピルスナーから離れ,世界中の様々なスタイルのビールを醸造・提供しています.最近は四大ブルワリーも非ピルスナースタイルのビールを「クラフトビール」と銘打って,別ブランドで提供していたりしますが,クラフトビールのブルワリーが作るビールにはピルスナーももちろんあります.

増えてきたクラフトビール醸造所

過去,ビールの醸造には「最低生産数量基準」という壁がありました.曰く,年間2000キロリットル以上作らないとビールの販売ができなかったのですが,1994年に法改正があり,それが一気に60キロリットルまで下がりました.この法改正の結果,ビールをより手軽に作れるようになったため,日本中にその地域風土に合わせた独特のビール(地ビール)を作る会社が増えました.

ただ,最初の地ビールブームでは,ピルスナーと全く違うスタイルのビールは日本人の口に必ずしも合わず,また生産技術も必ずしも高いものでなかったため一時のブームで鎮静化してしまいました.その後,アメリカやイギリスなどの醸造技術や新しいスタイルの導入に従い,またオクトーバーフェストなどのビールに対する接触機会が向上するに従い,再びクラフトビールの人気がじわじわと戻ってきて現在に至ります.

現在では,地域活性化の旗手のひとつとして,どんな地域に行ってもクラフトビール醸造をするところがあり,若い醸造家も増え(国内からも国外からも!),さらにはコンビニエンスストアやスーパーマーケットでの流通網に乗せられる規模のクラフトビールブルワリー(有名なところだと,長野のヤッホーブルーイング様や新潟のエチゴビール様など)も生まれ,四大ブルワリーもその一翼を担うなど,クラフトビールは単なるブームではなく,日本の醸造技術が台湾などの海外にも輸出されるほど,ひとつの酒文化として定着して現在に至ります.

クラフトビールとお酒文化を若いみなさんに!

このWebサイトは,クラフトビールという文化を支えに,2020年代に荒れ狂った(荒れ狂っている)コロナ禍で断絶しつつあった「お酒を飲む」という文化を若い世代に継承することを目指したサイトです.なんとなく「苦いのは嫌」という理由で敬遠されてきている若い人に,あるいは「自宅でハイアルコールを飲んで潰れて寝てしまうのがお酒の飲み方」みたいないろんな意味でヤバい飲酒経験をしている若い人に,ぜひ読んでもらいたいと思っています.

さあみんな,ビール片手に街に出よう!