北近畿で活躍するクラフトビール醸造家の皆様のビールに対する思いと地域に対する思いをインタビュー形式でお伝えする企画の第1回。京都府福知山市にあるCRAFTBANK様にお邪魔しました。共同代表の羽星大地(はぼし・だいち)氏にその設立から現在・未来までを語っていただきました!


羽星 初めまして。

― 初めましてよろしくお願いします。今回クラフトビールの取材させていただきます、福知山公立大学4年の津久井慈恩と、撮影の大島です。

羽星 珍しい名字ですね。(笑)

― お名前をお伺いしても。

羽星 羽星(はぼし)と申します。茶番はさて置き1

隣のブースに漏れた「何かやろう」の気持ち

― 早速、質問をいくつかさせてください。まずひとつ目、羽星さんのクラフトビールとの出会いと、ここを始めるきっかけをお話しして頂きたいと思います。

羽星 出会いは何かバチッと、これがあったという感じじゃないですけど。東京で仕事をしているときに、仕事が終わった後に、結構飲みに行ったりとかしてて。東京だとビアバーじゃなくてもクラフトビール飲めるところがあるし、割といたるところにクラフトビールが飲めるんですけど。結構割と日常的にクラフトビール飲んでて。それこそ一番近いスーパーでも、ブリュードッグのパンクIPAを常時置いていたりとか、仕事終わりにふらっと買って帰って、クラフトビールって美味しいよねぐらいの感じで、親しんでた。その中で、社会人として3~4年働いて、その先のキャリアどうしようかなというタイミングで選択肢として福知山に戻って、自分で何かやるみたいなイメージもあったから。福知山と親和性が高そうなもので何ができそうか、みたいな感じでフラフラと、いろいろ農業の勉強しに行ったりとか。
 こうしている中で、たまたま両親が住んでたのが、山梨で。そこのすぐ近くにうちゅうブルーイングっていうブルワリーがあって、何か調べてるとその人たちも、元々はオーガニック農家でアメリカでクラフトビールに出会って、ブルワリー立ち上げるみたいな感じだったんですけど。なんかちょっと経路が近そうだし、おもしろそうだから、いろいろと情報を追いかけていたら。ちょうどそこが夏にキャンプのイベントをやってて、ホップの収穫をして、みんなで1泊して、体育館でビールのイベントだったけど、それが何か全然知らない人たちが集まってるはずなのに200人ぐらいが体育館で、全然知名度のないアーティストの音楽に信じられないぐらい盛り上がってる感じが、なんかクラフトビールが人を惹きつけるじゃないけど、ひとつのきっかけになって、人々の和を作るみたいなところが、なんかすごいなと思って、ちょっと惹かれ始めて。
 自分でもできたらいいなとか思いながら業界の人と喋ってると、クラフトビール業界の人はすごくオープンな人が多くて、いろいろ教えてくれる。実際立ち上げに向けて動き始めても、醸造所見学に行くと言ったら受け入れてもらえて、実際に設備見せてもらえたりとか。横の繋がりも強い業界で、かつ人々をそうやって惹きつけるというのはいいなと思って、徐々にのめり込んでいった感じですかね。

― なるほど、羽星さんの出会いがCRAFT BANKの合言葉というかコンセプトに近いですね。

羽星 そうだね。だから、そのコンセプトの話で言うと「ビール片手に何かやろう」っていう感じで、福知山に戻ってきたときも、別にクラフトビールを始めるってバチッと決めて戻ってきてるわけではなくて、とりあえず体だけ戻ってきてみて、何かいろいろと動きながら模索をしていくうちに、醸造所を立ち上げることになっていったから。本当に初めから何をやるってバチッと決めるんじゃなくて、何かできたらいいなみたいなところで始まって。確かに合言葉にぴったりな。何かやろうと。
 …身内すぎて喋りづらいですよね。(笑)

― 共同代表の庄田さんとはどこで出会ったんですか。

羽星 (福知山に)戻ってきて、何をするとか決めてない中、割とクラフトビールいいなという思いもあって。補助金の申請をしようと思って、商工会議所とかに事業計画を持って行って、こういうことやりたいんですって話をしてたときに、たまたま当時コロナで、パーティションを会議室に引いてあって。パーティションを挟んで隣のブースに、その庄田の知人がいて。僕の話をパーティション越しに聞いていたみたいで、どうも東京から戻ってきた子がクラフトビールを立ち上げようとしてるようだぞ、というのを聞いて、それを庄田に伝えて。それから庄田が会ってみたいと言って、僕が相対した商工会議所の担当を経て、呼んでもらい、話すみたいな流れでした。(笑)

― マッチングしてた?

羽星 一応そうですね。マッチングっていうかガバガバの情報管理でマッチングしました。(笑)

― 今キーワードで、「ビールを片手になんかやろう」とおっしゃってたんですけど、始める前の”なんか”と、今現在の”なんか”に変化がありましたか?

羽星 イメージあるもので…というのは難しいな。”なんかやろう”にはふたつ意味があると思っていて。元々の「始める前」の感じと、あまりあれこれ考えすぎずに、とにかくもうちょっと「やれることをやっていこうね」みたいな意味もこもってたから。そういう意味だと始める前はそれに等しくて、DIYでも、学生たちに手伝ってもらいながら、よく分からないながらも、なんとかやりながらみたいな。とにかくできることをやろうっていう意味で。
 もうひとつは、本当にビールと一緒に何かを楽しむという意味。始める前から今にかけてずっと思い描いたこととして、今はまだやれてないけど、やっぱりビールっていうのをきっかけにプラスで、何かを組み合わせたイベントみたいなことをやりたいなと思って。
 1回しかできてないけど、キャンプのやつ2は本当にその感じで、いい方に楽しいよみたいな感じで。

― そういう展開をもうちょっと増やしていきたいですね。

羽星 そう。思いとしてはあるし、だいぶ余力も出てきたから、今年はちょっと何回かそういうのやりたいなと思って、今計画しているところです。

― 楽しみにしてます。
 続いて、このクラフトビールの企画が北近畿にフォーカスを当ててますけど、地域でクラフトビールを作る上での思いとか、こだわりがあれば教えて欲しいです。

人気のブルワリーとして認められることで福知山を知らしめたい

羽星 それは、地域で、横で一緒に連携してみたいな?

― それもありますし、この地域のCRAFT BANKとしてですね。

羽星 ここはもしかしたら庄田さんとは(違う)考えがそれぞれあるかもしれないけど、僕は、自分の中での第1優先事項に、この街のためにみたいな言葉は来なくて、どちらかというと、きちんと東京や大阪のような都市部も含めて、クラフトビールブランドとしてあそこはいいもの作ってるよねと認められるブランドになることが第1前提で、そこだけを考えている。
 それがどう地域に波及したらいいかとかというと、例えば、この前のBANK IPAの受賞3みたいに、ビールの大会で何かしらの賞を受賞して、福知山にあるCRAFT BANKがそういう賞を取ってるぞ、みたいな。それが、地元の人に少しでも心のどこかで誇りに思ってもらえたらいいかなと思う。それこそ、自分が東京にいるときに、「福知山出身です」と言うと「何があんの?」という質問が必ず来て、「何もないです」みたいな会話になってしまってた。でもそれが、日常で同僚と飲みに行ったときに、「このビールうちの地元のやつなんだよね。美味しくね?」みたいな感じで言えるようになったらいいなと思いながら、やってる。そうやって地域の人がちょっと心のどこかで誇りに思ってもらえるきっかけになれたらいいなって。
 でも、(地域にある)いいものはいいものでちゃんと使って発信したいから、だから栗とか小豆とか黒豆4とか本当に日本でも誇れる良いものは、タイミングタイミングでビールにもちゃんと取り入れてやっていきたいかな。例えば、昨日も柚子のビール5仕込んだけど、京都の亀岡のちょっと北、保津峡辺りに日本のゆずの栽培の発祥の地みたいなのがあって、めちゃくちゃこだわって柚子作ってて、そこの柚子を安く譲ってもらってビールを作ったりしてる。そういうやっぱり本当に物としていいものは、きちんと使って落とし込んでいきたいなと思うね。

― 僕も今は福知山の学生で、今年卒業なんですが、自分が住んでいたところに何か誇れるものが欲しいじゃないですか。味はやっぱり飲んでてすごく自慢できるんですけど。

羽星 ありがとうございます。(笑) 

― 賞というかそういう形であったらまた何かわかりやすいですよね。

羽星 賞が全てではないけど、何か例えば今でこそ、とりなごさん6とかだったら、やっぱ同じようなことが東京で起きてるわけで、恵比寿に行って、ここめちゃ美味しくね? 福知山で有名なお店なんだけど、みたいな感じで言えたらいいなと。まずはそのひとつになりたいなって感じ。

― 今話の中で、丹波やこの地域の素材を使った丹波栗とか黒豆とか、それから柚子のことを聞いたんですけど、今後何か使いたい素材とかありますか?

羽星 使いたいものか…この辺の地域でってこと?

― もっと広げてもいいんですけど。

羽星 どこまでオフィシャルな話かは置いといて。例えば話題に出ているのは、黒文字(クロモジ)と言ってちょっと香りが豊かな木みたいな感じのは使ってみたいなとか。あと何だろな。夜久野の方でウベ(ムベ)っていうアケビみたいな味のフルーツがあるんだけど、それが使えないかなって話があったりとか。

― それは外から声が掛かってくるのですか?

羽星 そうね。で面白そうだなと思ってて。ちょっと難しそうだなっていうのも、一方であるんだけど。

― 味のイメージがつかないですね。

羽星 だからちょっと商品化までは遠そうだけど。わかりやすい素材はもう使ってる感じじゃない。素材としてはこんな感じ。

― 今度はビールの方の話を聞いていきたいんですけど、羽星さんと庄田さんで作ってるビールのスタイルが違うと思うんですけど、羽星さんの好きな、または得意なビアスタイルって何ですか?

羽星 今年1年いろいろイベントとかでお客さんと喋ってると、なんか割とホップがしっかりのってて、色々透明度は高めで、ドライって言ったらいいのか、ちょっとすっきりな、飲み口が軽いようなビールは得意なのかも。今年(2023年)作ったもので言うと、まずBANK COLD IPAが来て、その次に変な素材を使ってるけど、やっぱりすっきりドライな味わいでよい出来だったBANE POP SHOWERとか、その次に作った三段池モチーフのTHREE STEPS LAKEとか、あの辺りが割と得意なスタイルかな。明るめの色でクリアな味わいのビールが得意なのかもしれない。

― 僕も全部飲んだんですけど、どれもめっちゃ美味しかったです。

羽星 次の柚子もそういう感じやから。

「知ってもらう」の次へ

― 最後の質問になるんですけど、ちょっと今話の中でもう答えが出てきたのかもですけど、今後のCRAFT BANKの展望を教えてください。

羽星 そんなめちゃくちゃ大きな野望とか、その先みたいなことは考えてないんすけど。でも、外販みたいなところも一通り落ち着いてというか、ある程度先が見えてきたから、やっと本来CRAFT BANKとしてやりたかったことができるようになってきたのかなと思う。ちょっと戻ると、今年(2023年)は「知ってもらう」っていうのが一番大きなテーマの年で。イベントもたくさん出たし、外販、営業もたくさんしたっていうのは今年からで。来年からは、知ってもらう人を増やすのは継続しつつも、きちんと自分たちが目指してるその世界観を発信していくことが大事かなって。その関連のイベントをちょっと企画しようかなっていう感じかな。

― それはCRAFT BANKが主催のイベント?

羽星 それもそうだし、出るイベントとかも、しっかりカルチャーが感じられるイベントやったら、なお良いかなという感じで。多分(共同代表)それぞれ個人個人、やりたいことがいっぱいあるんですけど。僕個人の話でいうと、初めのきっかけのところに、ちょっとまた関連するんだけど、元々テック計の業界にいたっていうのがあって、新しい技術の勉強会みたいなのを、ミートアップとかっていう名前で、エンジニアの人らは沢山やってるんだけど。そういうところって受付でクラフトビールを配ったりしてて。当時それもいいなと思ってたのもあって。前職の繋がりで仲のいい人が主催しているイベントとかを協賛でやれたらいいなとか、ちょっと思ってる。

― それこそ、すごいCRAFT BANKの合言葉が活きてきそうですね。

羽星 ビール片手にテックの勉強しようじゃないけど、何になるかわからないけど。そんな感じでやれたらいいかなと思うから、ちょっと今はそれを個人的に構想してて。

― 楽しみにしてます。

(続く。インタビュアー:津久井,2023年12月)

  1. インタビュアーの津久井はCRAFT BANKの常連なので「初めまして」なはずがない。 ↩︎
  2. CRAFT BANK BEER CAMP 2022。キャンプ場を借り切ってのビール+フードのイベント。2022年10月に開催。 ↩︎
  3. 2023年度 Japan Great Beer Awards 銀賞。受賞ビール一覧 ↩︎
  4. 全て北近畿の特産品でもあり、CRAFT BANKのビールの原料でもある。
    KURI GOLD(ピルスナー)、AZUKI RED(ヴァイツェン)、KUROMAME BLACK(ブラックIPA)。 ↩︎
  5. YUZU COLD IPA、2024年1月発売。 ↩︎
  6. 鳥料理専門店 鳥名子。鴨すきが有名。 ↩︎